研究概要 |
多くのグラム陰性病原菌はタイプIII分泌機構とよばれる病原因子分泌システムを有しており、そのシステムから分泌される因子の中には宿主細胞内に移行し、宿主の生理機能をかく乱するエフェクターとよばれる蛋白質群が存在する。百日咳菌に代表されるボルデテラ属細菌もタイプIII分泌機構を有しているが、この分泌装置より分泌される蛋白質は3種しか同定されておらず、その機能もまったく未知であった。本研究では百日咳菌B.pertussisの類縁菌である気管支敗血症菌B.bronchisepticaを材料としてタイプIII分泌機構依存的に分泌される新規病原因子の同定とその機能解析を試みた。その結果、BopCと命名した74kDaの新規タイプIII分泌蛋白質を同定することに成功した。BopCを欠損する気管支敗血症菌をラットの肺上皮由来の培養細胞であるL2細胞に感染させた場合には、野生株を感染させた場合に認められるタイプIII分泌機構依存的な細胞の剥離等の形態変化が認められなかった。気管支敗血症菌はタイプIII分泌機構依存的な溶血活性を有することを我々は見出しているが、この活性はタイプIII分泌蛋白質のなかのポアを形成する働きをもつタンパク質に依存している。BopC欠損株は野生株と同程度の溶血活性をもつことから、BopCはポア形成に関与するタンパク質ではなく、宿主細胞に対する細胞傷害性を誘導するために直接関与する新規エフェクターであることが考えられた。そこでBopCを哺乳類細胞内で発現させたところ、ラクテートデヒドロゲナーゼの遊離を伴うネクローシスが誘導され、BopCは新規エフェクターであることを明らかにした。この研究成果はJ.Biol.Chem.に掲載された(281:6589-6600,2006)。
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