研究概要 |
髄膜炎菌は数ある髄膜炎菌起炎菌の中で唯一流行性髄膜炎を起す危険な菌である。本研究では通常の臨床医学では髄膜炎菌の確定マーカーとして一般的に認識されているγ-glutamyl aminopeptidase (GGT)の遺伝学的、進化学的な解析を行なった。その結果、髄膜炎菌の近縁菌で、ある淋菌にはGGT活性は見出されておらず、その遺伝子も存在しないものと推定されていたが、淋菌染色体上に髄膜炎菌ggt遺伝子と90%以上の相同性を保持する偽遺伝子(gonococcal ggt homologue ; ggh)として例外なく存在していることを見出した。さらに淋菌と髄膜炎菌のggt遺伝子とその周辺遺伝子の遺伝子配列の相互比較した結果、ggt遺伝子を含む周辺遺伝子の配列順序が髄膜炎菌と淋菌で100%同一であることが見出された。また、淋菌ggh遺伝子のプロモーター領域の塩基配列も髄膜炎菌ggt遺伝子と100%同一で実際に転写活性を保持しており、転写活性を保持した原核生物の偽遺伝子として初めて原核生物で初めて同定された。生物進化的観点からggt遺伝子と周辺遺伝子を含むDNA領域が髄膜炎菌と淋菌に取り込まれた後、進化上で淋菌のggtホモログは構造遺伝子内に変異を蓄積して不活化される一方で髄膜炎菌のggt遺伝子は機能を維持されてきた可能性が推測された。また、そうした進化学的な考察から淋菌のggh遺伝子のみに変異が入り、髄膜炎菌ggt遺伝子は変異を起こすことなく活性を保持し続け進化したという事実は髄膜炎菌GGTが髄液中の成育に重要な役割を担い(Takahashi et al., J.Bacteriol.186:253-257,2004)、且つ髄膜炎菌のみが髄膜炎を起こすという臨床事実と非常に合致していると考えられた。
|