癌細胞から分泌される自然免疫応答増強因子の作用と性状について検討した。組織型の異なる様々な肺癌組織から樹立された10種類の細胞株の培養上清を採取し、健常人末梢血から単離した単球に加えた。次に、それらの細胞をToll-like receptor(TLR)2/4のリガンドであるウシ型結核菌細胞壁成分BCG-CWSで刺激し、産生されるサイトカイン量を測定したところ、いずれの肺癌細胞株の培養上清によってもBCG-CWS単独で刺激したときに比べてIL-12p40およびTNFαの産生量が増加した。このとき、誘導されるサイトカイン遺伝子のmRNA量も増加していた。また、癌細胞株の培養上清のみではサイトカイン産生は誘導されなかった。TLR刺激に対する選択性について種々のTLRリガンドとそれぞれの標的細胞を用いて検討したところ、癌細胞株の培養上清はBCG-CWS(TLR2/4)だけでなくStaphylococcus aureusペプチドグリカン(TLR2)、LPS(TLR4)、polyI:C(TLR3)や非メチル化CpGオリゴヌクレオチド(TLR9)の刺激に対しても増強作用を示すことが分かった。以上の結果から、肺癌細胞の多くが自然免疫応答増強因子を分泌すること、その因子は広範なTLRシグナルを増強することが示唆された。 次に、増強因子の性状について検討したところ、これまでの解析で分かったタンパク成分だけでなく、低分子量の成分によってもBCG-CWSによるサイトカイン産生が増強されることが示唆された。このことから、癌細胞は自然免疫応答を調節する様々な因子を分泌していることが予想された。タンパク成分を同定することを目的として癌細胞の培養上清に含まれるタンパク質をクロマトグラフィーにより分画し、BCG-CWSの作用を増強する活性のある画分を得た。
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