一般にプラスミノーゲンの活性化には、プラスミノーゲンアクチベーターであるu-PAが関係する。そこでNAのアミノ酸配列を検討したところ、分子表面に存在してループ構造を形成する346番から355番のアミノ酸配列(RTKSDSSRHG)がu-PAの結合配列候補である(BxxSSxxB)と類似していること見いだした。更に、プラスミノーゲンと結合するが活性化を促進しないPR8株の変異NA(N146R)と活性化を促進するWSN株NAの構造を比較したところ、この配列内に1アミノ酸の変異が認められた。そこで、NAはプラスミノーゲンおよびu-PAとともに3分子の複合体を形成する可能性を検討するために、RTKSDSSRHG配列を変化させた複数の変異NA発現細胞を用いてプラスミノーゲン活性化試験を行ったが、この配列がプラスミノーゲン活性化に重要な役割を持つ結果は得られなかった。また、u-PAの阻害剤はWSN株の増殖を抑制しないことが示された。以上の結果は、A型インフルエンザウイルスのプラスミノーゲン活性化の分子機構は、生理的条件の分子機構と比べ異なることが示唆された。 培養細胞での実験は、プラスミノーゲンを生理的条件の0.1%(2nM)の濃度で用いる。そこで、より高濃度でのウイルス増殖動態を調べた結果、5%(100nM)の条件ではウイルスの増殖はNAのプラスミノーゲン結合に依存しなかった。しかし、血清を用いて同濃度のプラスミノーゲンを供給したところ、ウイルスの増殖は抑制された。血清中にはα2アンチプラスミンなどのプラスミン阻害物質が含まれていることを考えると、NAの機能はプラスミノーゲン活性化に加え、プラスミンの活性維持にも重要であることが考えられた。
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