一般的に細胞表面におけるプラスミノーゲンの活性化には、プラスミノーゲン、プラスミノーゲン受容体、プラスミノーゲンアクチベーターu-PA、そしてu-PA受容体の4要素が関与すると考えられている。インフルエンザウイルス感染におけるプラスミノーゲンの活性化に、それらの要素がどのように関わっているのかは不明である。本年度は原点に戻り、u-PAの関与自体を検討する目的で、u-PAの阻害剤存在下でのプラスミノーゲン依存性に増殖するA/WSN/33の増殖を検討した。u-PAの阻害剤として知られる、suramin、amiloride、u-PA-ATFは、細胞に傷害を起こさない最高濃度においても、プラスミノーゲン存在下でのA/WSN/33の増殖に影響を与えなかった。この実験では、適切な陽性コントロールを設定できないことが問題であるが、この結果は、インフルエンザウイルス感染に起因するプラスミノーゲン活性化はu-PA非依存性である可能性を示唆した。この説明としてNAの分子自体がアクチベーターとしての機能を有することが考えられる。この仮説によれば、プラスミノーゲン受容体として機能しうる構造を持つ他のウイルス由来NAが、プラスミノーゲン活性化に関与しないという結果を、異なるNA分子のアクチベーター機能の有無で説明できる。このため、蛍光物質で標識したプラスミノーゲンを用いて、NAとの結合を確認した結果、プラスミノーゲンとの結合はその活性化に必須ではないことが解った。以上の結果より、インフルエンザウイルスのNAはプラスミノーゲン活性化に関して、単なる受容体以外の未だ不明な機能を持つことが予想され、そのようなNAの細胞表面での発現は、細胞外マトリックスの構築に影響を与える可能性が考えられた。
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