HIV-1は、チンパンジー以外のサルのリンパ球では逆転写の過程が効率良く進行せず増殖できない。この性質はサル細胞に存在する阻害因子によるものとされている。最近、サル免疫不全ウイルスSIVmacは増殖できるがHIV-1は増殖できないアカゲザルのTRIM (tripartite motif) 5alpha遺伝子を発現させた細胞は、HIV-1に対する感染感受性が低下することが報告された。一方、研究代表者は、アフリカミドリザル由来のCV1細胞は、HIV-1のみならずSIVmacの感染感受性も低いことを明らかにしており、アフリカミドリザル由来のTRIM5alphaの性質を明らかにすることにした。 アフリカミドリザルのTRIM5alphaは、HIV-1の感染を強く阻害するのみならず、SIVmac239の感染も阻害する。一方で、カニクイザルのTRIM5alphaは、HIV-1の感染を阻害することはできるが、SIVmacの感染を阻害することができない。この違いは、TRIM5alphaのSPRYドメインの中の、アフリカミドリザルでは37アミノ酸、カニクイザルでは17アミノ酸に相当する、わずかな領域によって決定されていることが明らかとなった。ところが、アフリカミドリザルのTRIM5alphaとカニクイザルのTRIM5alphaを同一細胞中で同時に発現させると、SIVmac感染阻害効果が失われることがわかった。この現象は、さきほどのべた領域のみがカニクイザル由来のものを持つTRIM5alphaでも見られることがわかり、TRIM5alphaが、レンチウイルス感染阻害効果を発揮するためには、この37アミノ酸の領域が多量体を形成しなければならないことが明らかとなった。
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