研究概要 |
ウイルス侵襲に対する脳内のケモカイン応答は、末梢白血球の動員を促進することで病原体の排除に働く。その反面、ケモカインの過剰分泌は炎症反応による神経組織の破壊を惹起し、ウイルス性脳炎の重篤化に深く関与する。本研究は、ウイルス感染脳においてケモカインの発現が誘導される分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。昨年度(平成16年度)では、脳内免疫を司るマクロファージ様細胞(ミクログリア)に注目し、ウイルス感染に対するシグナル分子活性化とケモカイン発現誘導を細胞レベルで解析した。本年度(平成17年度)では、ウイルス感染脳における時間的かつ空間的なケモカイン発現プロファイルを構築することを目標として研究を行った。代表的な中枢神経系ウイルスである狂犬病ウイルス(Rabies virus, RV)をマウスの末梢部位(大腿部筋肉内)に接種し、ウイルス性脳炎の発症に至るまで経時的に脳を採取し、ウイルスゲノムおよびケモカインmRNA量をリアルタイムRT-PCR法により測定した。RVを接種したマウスでは接種5日後において体重減少が観察され、7日後において下肢の麻痺が観察された。また、脳内でのウイルスゲノム量は接種5日後において顕著に増加した。ウイルス性脳炎を発症したマウスでは、CCケモカイン(CCL2/MCP-1、CCL3/MIP-1α、CCL5/RANTES)ならびにCXCケモカイン(CXCL10/IP-10)の遺伝子発現が誘導されること、とりわけCXCL10の発現がウイルス感染初期(接種5日後)から飛躍的に増大することを明らかにした。脳の部位特異的な遺伝子発現量を調べた結果、RV感染に対するケモカイン応答は中脳や小脳、延髄において強く誘導されることが分かった。次年度(平成18年度)では、ウイルス感染に対するケモカイン発現誘導に関与するシグナル経路を解析する。
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