リステリア菌がマクロファージに貪食されると、ファゴゾームから脱出して細胞質内で増殖し、Th1タイプのサイトカイン産生誘導を引きおこす。サイトカイン情報伝達系のネガティブフィードバック因子であるSOCS遺伝子群は、自然免疫・獲得免疫において免疫反応を制御する事が知られている。そこで、リステリア菌がマクロファージに感染した時のTh1誘導のメカニズムおよびSOCS遺伝子群の関与を解析するために、4種類のマクロファージ細胞株・骨髄由来のマクロファージ・チオグリコレート培地の腹腔内投与によって得られる腹腔滲出性マクロファージ(TGC-PEC)を用いた。リステリア菌の感染効率の面から以後の実験はTGC-PECにリステリア菌を感染させ、サイトカイン・ケモカインおよびその受容体、SOCS遺伝子等の遺伝子64種類に関してRT-PCRを用いて遺伝子発現の経時的変化を検討した。その結果、リステリア菌感染によって転写が強く誘導されるSOCS3を含む遺伝子20数種類を同定した。SOCS3はリステリア菌感染によって非常に早く誘導される遺伝子であるが、ある受容体を欠失したマウス由来のTGC-PECではリステリア菌感染による転写誘導が顕著に抑制されていた。また、20数種類の遺伝子の中から、非病原性リステリア菌の感染時に発現誘導が見られない遺伝子を数種類同定した。これらの遺伝子はMyD88欠損マクロファージでも観察される事から、リステリア菌の病原因子特異的で、TLRシグナル伝達系非依存的な経路による誘導と推測される。そこで、リステリア菌感染に伴うSOCS3の発現メカニズムおよび病原因子特異的に誘導される遺伝子産物の生体内における作用に関して解析を行っている所である。
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