研究概要 |
睡眠薬や抗不安薬をはじめとした向精神薬の与薬は,患者の転倒・転落のリスクを高めることが知られている.従来の研究では,薬剤の半減期が長時間型である睡眠薬などの与薬が,転倒・転落につながるとする報告が多く,短時間型の睡眠薬の利用が勧められてきた.しかし,最近の欧米での研究や本研究においても,薬剤の半減期で転倒・転落発生のリスクを評価するのは難しいということが明らかになりつつある. 平成16年度は,東邦大学医学部付属大森病院(ベッド数約900床の特定機能病院)において,2001年3月1日から2003年3月31日までの25ヶ月間に集められた3,585件のインシデントレポートのうち,向精神薬の関係する234件の転倒・転落について分析した.その中で,半減期に替わり,最高血中濃度到達時間(Tmax)を指標として転倒・転落発生のリスクを評価した.その結果,特にベンゾジアゼピン類の睡眠薬と抗不安薬において乳最高血中濃度到達時間の短い薬剤ほど,転倒・転落のリスクが高いことが判明した.言い換えるならば,薬剤の血中濃度が急激に上昇する薬剤ほど,転倒・転落のリスクが高いとも言える. これにより,薬剤のかかわる転倒・転落のリスク評価の精度の向上が期待される. さらに,睡眠薬と抗不安薬の半減期の長短に着目し,向精神薬の半減期と,患者の転倒・転落の発生時間との関連性について分析を進めている.なお,分析結果の一部は,第42回日本病院管理学会学術総会(熊本)において,「向精神薬の半減期と転倒・転落の関係に関する研究」として発表した.
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