本研究では、胃酸およびペプシン分泌の調節におけるプロスタグランジン(PG)/EP受容体サブタイプの役割について検討し、以下の成績を得た。 1.プロスタグランジン(PG)E2は胃酸分泌の調節において抑制および促進の二面性を示すことが判明した。抑制作用は主としてEP3受容体を介しており、壁細胞に対する直接および腸クロム親和性様(ECL)細胞からのヒスタミン遊離の抑制によるものと推察された。また、促進作用は主としてEP4受容体を介しており、ECL細胞からのヒスタミン遊離の増大に起因しているものと推察される。平常時にはEP3受容体を介する酸分泌抑制によりマスクされているが、迷走神経切断などにより基礎分泌が極端に低下した条件下でのみ観察された。EP4受容体を介する酸分泌促進作用はおそらくEP3受容体を介する過度の酸分泌抑制を防ぐ役割を担っているのかもしれない。 2.PGE2は胃ペプシン分泌に対しては胃酸分泌の場合とは異なり、促進的に作用し、この作用は主としてEP1受容体を介していることが判明した。一方、前胃および幽門結紮により誘起されるラット酸逆流性食道炎に対してPGE2の投与は0.3~1mg/kgの範囲では抑制効果を発揮したが、3mg/kgでは抑制効果は消失した。同様の現象はEP3受容体を刺激した場合にも観察されたことから、食道粘膜保護にはEP1受容体が関与しているものと推察される。しかし、ペプシン分泌はEP1受容体を介して刺激されることから、高用量のPGE2はペプシン分泌の増大によりEP1の粘膜保護作用を超えてしまったためPGE2の保護作用が観察されなかったものと考えられる。
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