家族性乳癌原因遺伝子BRCA1は非常に重要な癌抑制遺伝子で、胚細胞変異による卵巣癌発症リスクは約40%、乳癌発症リスクは約65%とされ、散発性癌に比較し若年発症で、両側乳癌や多臓器重複癌の頻度が高い。そのため本遺伝子変異の診断は、定期的精密検査による早期発見、治療方針の決定、患者のフォローアップにおいて重要である。本研究ではBRCA1の機能解析により、遺伝子診断検査に応用可能な機能診断法の確立めざした。 これまでの研究によりBRCA1は、転写制御、DNA修復、細胞周期など細胞内の多様な機構に関与するとされている。本遺伝子の変異の80%がprotein-truncation mutationであることより、これまではC末端を介した転写制御能が注目されてきた。しかし近年、BRCA1がBARD1と共役したユビキチンポリメラーゼ活性をもち、腫瘍由来のミスセンス変異体でこの活性がないことが分かった。また、筆者らのこれまでの研究によりS期の核内fociの形成にBRCA1のN末端が重要であるが分かった。よって、N末端で既に報告された点突然変異をもつ発現ベクターを作製し、BRCA1のS期の核内foci形成能、ユビキチン化能を検討し、これらの変異体の機能について検討したところ、RINGドメイン内の多くの変異体において、これらの機能が障害されており、BARD1タンパクとの結合能に強く依存していることを明らかにした。 さらに、BRCA1のC末端を介してBRCA1と結合する転写制御に関わる分子が、BRCA1のユビキチン化の標的となることを、in vitro、in vivoの実験によって明らかにした。また、そのユビキチン化は、腫瘍において報告された点突然変異、C末端の欠損によって、著しく減弱し、さらにDNA障害によって増強されることを明らかにした。よって、BRCA1の癌抑制機構において、ユビキチン化能が重要な働きをすることが示唆することができた。
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