研究概要 |
塵肺の原因は粉塵暴露である。現在、吸入粉塵を貪食して活性化された肺胞マクロファージが活性酸素や活性窒素酸化物を放出し、これらが酸化的ストレスとなって肺の慢性炎症を惹き起こし、さらに線維化に至るという考えのもと、塵肺の発生機序について研究を進めている。 マクロファージ系RAW264.7細胞およびJ774細胞を培養し、アスベスト(クリソタイルB,クロシドライト)またはその代替線維(グラスウール,ロックウール,セラミックファイバー)を加えて貪食させたところ、24時間後にはRAW264.7細胞およびJ774細胞いずれも多量の一酸化窒素(NO)を生じることを明らかにした。同時に、培養上清中にニトロソチオール(RS-NO)が増加することも明らかにした。この時、細胞内還元型グルタチオン(GSH)量は有意に減少し、従ってアスベスト等に曝露されたマクロファージはROS,RNSの生成だけでなく、細胞内の主要な抗酸化物質であるGSHの減少によっても酸化ストレスを受けることが示唆された。さらに、Wistar系雄ラットにクリソタイルを気管内注入し、24時間または48時間後の気管支肺胞洗浄液および血漿中RS-NO量を測定した結果、いずれもクリソタイル注入群で有意に高値を示した。このことから、クリソタイルの気管内注入により、肺内のみにとどまらず、生体内のあらゆる器官における酸化ストレスが増大する可能性を示した。 また、RAW264.7細胞およびJ774細胞にクリソタイルおよびロックウールを加えた場合、3時間後からスーパーオキシドアニオン(O_2^-)の産生が有意に増加することを明らかにした。そこで、RAW264.7細胞にクリソタイルを添加後24時間の脱共役蛋白質(UCP)-2発現量を測定したところ、クリソタイル添加群でUCP-2発現量の増加傾向が見られた。現在、再現性の確認と共に、さらに詳細な検討を進めている。
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