陳旧性試料を対象とした遺伝子解析は、DNAの断片化やPCR阻害物質の混入などにより非常に困難な場合が多い。しかしながら、近年の遺伝子解析技術の進歩により数千年前の古代人試料の遺伝子解析研究が報告されつつある。本邦でも縄文時代や弥生時代の古代人ミトコンドリアDNA遺伝子解析がいくつか報告されており、日本人の起源を明らかにしようとする試みがなされている。1994年に長野県小諸市の七五三掛地籍で発掘された複数人の人骨は、その炭素年代分析により縄文時代後期から晩期にかけてのものと推定された。本研究は、日本有数の黒曜石産地であった和田峠近郊に位置する七五三掛地籍発掘人骨の遺伝子解析を行うことによって、出土人骨の血縁関係、あるいはこの集団の他地域との遺伝子的関係を明らかにしようとするものである。 現在までに右大腿骨9体分、および3体分の下顎に残存する歯牙のミトコンドリアDNA Hypervariable region解析を中心に研究している。その結果、大腿骨では6体について遺伝子解析に成功し、全て同一の配列を有していた。つまり同一母系と考えられ、縄文時代の乱婚の文化を考慮すると矛盾するものではなかった。さらに近年多く報告されているheteroplasmyが同一部位に全例で確認された。古代人のheteroplasmyはこれまでにほとんど報告がなく非常に貴重なものと判断される。これらの配列は1体分の歯牙からも検出された。 今後は解析範囲をcording regionに広げ、系統分類の位置づけを行うと共に、STR解析なども行う予定である。
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