本研究は筋肉損傷(外傷)に対して、特異性と感度について互いに異なる筋形質蛋白質と筋構造蛋白質の両者の血中濃度を測定比較し、より正確な筋肉損傷(外傷)の評価を行う目的で、sandwich ELISAを応用し、2つの蛋白質を同時に測定できる新しい方法(multiplex-ELISAと仮称)を開発するものである。本年度では、先ず指標とする抗原(筋形質蛋白質:β-enolase、筋構造蛋白質:myosin heavy chain[MHC])の精製を行った。β-enolaseについては各種クロマトグラフィーを行って免疫必要量が得られた。MHCについては当初市販品を購入する予定であったが、ELISAには不向きであることが判明したため、β-enolase抽出に用いた骨格筋ホモゲナイズ後の残りの沈渣から独自に精製を行った。先ず定法に従って、Guba-Straub溶液(0.5M KCl)で骨格筋からの可溶化を試みたが、回収率が極めて低く精製が困難であった。そこで、最初のホモゲナイズ時にATPを適宜添加して精製を進めたところ、回収率が向上し、現在測定標品として必要量を確保することが出来た。続いてβ-enolaseのモノクローナル抗体の作製については、(株)エーザイのご協力の下、現在進行中であり、β-enolaseに特異的で且つ反応性の高い5クローンを選択後、再度クローニングを行い、エピトープの異なる2クローンをexpandする予定である。今後、得られた2種類の抗体について、それぞれペルオキシダーゼ及びβ-ガラクトシダーゼ標識して測定系を確立後、外科手術患者並びに陸上競技者の血中β-enolase及びMHCの濃度測定を行い、骨格筋損傷の客観的な評価を検討する予定である。
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