[目的] 骨折の受傷後経過時間は法医学的に重要な情報の一つである。我々はこれまで皮膚を中心とした検討を行ってきたが、mRNAは蛋白に先んじて変動しており、外部環境への曝露度が低いほどマーカーの死後保存性は高いことを示唆するデータを得ている。よって骨折試料に分子生物学的手法を導入することにより、骨折後急性期から有用で死後変化に耐えうる診断法の確立が可能であると考えられる。本年度は骨折治癒過程での発現の報告があるbasic fibroblast growth factor (bFGF)とurokinase type plasminogen activator (uPA)について検討した。 [方法] マウスを用い、Bonnarensらの大腿骨骨折モデルにより骨折を作成した。すなわちハロセンで吸入麻酔後、右大腿骨にL字鋼をあて固定した。さらにこのL字鋼に200gの分銅を高さ20cmのところがら衝突させ骨折を作成した。骨折作成後、240時間まで経時的に骨試料を採取し、quantitative PCRを用いて定量的に検討した。 [結果および考察] 骨折部位を肉眼的に観察すると骨折作成後240時間後には骨折部位に化骨が形成されており癒合していたが、それ以前の時間には経時的な特徴を認めなかった。またbFGF mRNA発現量は8時間後にピークとなるが、72時間後に再上昇を認めた。一方uPA mRNA発現量は72時間後にピークとなり、240時間後もなお健常骨に比べて有意差をもって高かった。これまでの骨折治癒過程におけるサイトカインおよび増殖因子の検討は亜急性期、慢性期を中心としたもので、法医学的に問題となる急性期についての詳細な検討は我々の調べる限りでは行われていない。しかし本検討によると急性期においてもその発現は変動しており、特にbFGFは骨折後まもなく死亡した事例に応用可能な因子の一つと考えられた。
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