[目的] 骨折の受傷後経過時間は法医学的に重要な情報の一つである。我々はこれまで皮膚を中心とした検討を行ってきたが、mRNAは蛋白に先んじて変動しており、外部環境への曝露度が低いほどマーカーの死後保存性は高いことを示唆するデータを得ている。よって骨折試料に分子生物学的手法を導入することにより、骨折後急性期から有用で死後変化に耐えうる診断法の確立が可能であると考えられる。本年度はIL 10、tissue type plasminogen activator(tPA)、urokinase type plasminogen activator(uPA)について検討した。 [方法] マウスを用い、Bonnarensらの大腿骨骨折モデルにより骨折を作成した。すなわちハロセンで吸入麻酔後、右大腿骨にL字鋼をあて固定した。さらにこのL字鋼に200gの分銅を高さ20cmのところから衝突させ骨折を作成した。骨折作成後、240時間まで経時的に骨試料を採取し、quantitative PCRを用いて定量的に、またin situ hybridization法を用いて発現部位の経時的変化を検討した。 [結果および考察] 骨折部位を肉眼的に観察すると骨折作成後144時間後には骨折断端に化骨が形成され、240時間後には骨折断端の肥厚を認めたが、それ以前の期間には変化を認めなかった。IL 10 mRNA発現量は骨折後24時間にピークとなり、組織学的には骨細胞、骨芽細胞、macrophageに発現が認められた。またtPA mRNA発現量は骨折後1時間から24時間後にかけて軽度の上昇があり、72時間後にピークとなり、144から240時間後までの発現量は健常組織と同等であった。一方uPA mRNAには骨折治癒過程における発現量の変動を認めなかった。本検討の結果からIL 10 mRNA、tPA mRNAは骨折後急性期のエイジングに応用可能な因子と考えられた。
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