研究概要 |
末期肝疾患に対する肝移植ドナー不足はいまだ解決されていない問題である.最近,骨髄由来幹細胞の可塑性が注目され,肝についてはHematopoietic stem cell(HSC)やMultipotent adult progenitor cell(MAPC)の肝分化能が明らかとなり肝細胞供給源として期待されている.しかし,培養増殖が困難であることや,実際の肝分化の頻度は数%以下とごく稀であることが明らかにされ,さらには最近HSCの肝分化は細胞融合によるとする指摘も見られることから現時点では上記の骨髄由来幹細胞をそのまま治療へ応用することは難しいと考えられる.しかし,これらの細胞にくらべ手技的により容易に樹立および培養増殖が可能なMesenchymal stem cell(MSC)については,これまで肝細胞分化に成功したという報はなく、我々はヒトMSCがin vivoでヒト肝細胞へ分化可能であるか否か検討した. MSCは,ICを得た健康成人の骨髄より得た単核球を一晩培養後,得られた付着細胞を培養し用いた.5週齢のSD ratに対しCyAの投与開始後allyl alcohol(AA)を3日に1度投与し慢性肝障害を与えた肝障害開始後MSCを肝臓に局注し経時的に肝臓を摘出して抗ヒトAlb, AFP, CK19,CK18及びAGPR抗体を用いて免疫染色した.また肝組織中のヒトAlb産生をRT-PCRとELISA法で検討した.細胞融合の関与を検討するためヒトおよびラット特異的プローブを用いFISHを施行した.MSC移植後14日後の肝組織中にヒトAlb, AFP, CK19,CK18,AGPR抗体陽性細胞からなるClusterが確認され,移植後28日後ではAlb陽性のclusterの増大を認めAFP及びCK19の発現は低下した.またRT-PCRで移植後14,28日目にヒトAlb mRNAの発現を認めた.さらにELISAで移植後28日目にヒトAlbの産生を確認した.また検索し得た範囲では,細胞融合は認められなかった.以上の検討より肝障害を受けたratの肝臓組織内など,肝臓への分化誘導に好適な条件が整った環境下では,ヒトMSCは成熟肝様細胞へと分化しうることが明らかとなり,MSCの肝臓再生医療への応用の可能性が示された.
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