近年、胃癌に対し、Photodynamic therapy (PDT)が行われている。PDTでは、励起光照射により腫瘍に集積した光感受性物質周辺の酸素分子は一重項酸素に変換され、その組織障害性により治療効果が発揮される。すなわち、PDTの成功には、(1)酸素、(2)光感受性物質、(3)励起光の腫瘍局所への効率の良い供給が不可欠である。しかし、腫瘍組織深部は低酸素であり、一重項酸素の産生は大幅に制限されPDTの効果は著しく減弱してしまう。一方、悪性腫瘍組織においては、その(1)急速な発育に基づく腫瘍血管の粗な構築による(リポソームなどの)高分子物質の腫瘍間質への漏出、(2)末梢リンパ管の未発達による漏出物質のドレナージ低下による腫瘍間質での貯留といった、特異的な性質が観察される。そのため、この性質を利用して腫瘍選択的なDrug delivery systemの開発が可能となる。今回、低酸素環境下photodynamic effectの改善を目的として、電子親和性の高い低酸素環境下毒性発揮物質である、nitroimidazole化合物を光感受性リポソームに結合させ、‘低酸素環境対応型光感受性リポソーム'を新たに作製し、ヒト胃癌細胞株に対する抗腫瘍効果について検討を行った。酸素濃度計および窒素ガスを用いたin vitroでの低酸素環境(特に酸素濃度2%以下)において、通常の(低酸素環境非対応型)光感受性リポソームでは、Photodynamic effectの有意な減弱を認めたが、低酸素環境対応型光感受性リポソームでは、比較的維持された。また、リポソーム安定性試験においては、両者とも同等の膜安定性を示した。今後、ヒト胃癌細胞移植ヌードマウスに対する抗腫瘍効果を含め検討を行っていく。
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