研究概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)感染は 本邦における肝硬変、肝癌の約80%の原因であるが、その病態解明と治療法に関しては、いまだ十分な確立がなされていない。我々は、これまでにC型肝炎ウイルスコア蛋白(HCV core protein)が、サイトカイン細胞内シグナル伝達を活性化することにより、C型関連肝発癌過程において中心的役割を演じていることを証明した。(J Exp Med.2002 Sep 2;196(5):641-53.)。さらにJohns Hopkins大学や我々は、サイトカインレセプターからの細胞内シグナル伝達におけるJAK-STAT経路のnegative regulatorであるSOCS 1(suppressor of cytokine signaling-1)遺伝子が肝癌において高率にDNAのメチル化を受け発現が低下していることを見出した(Nature Genetics 2002)。 このような背景をもとに、肝癌発症前の慢性肝炎、肝線維化過程におけるSOCS1遺伝子の役割について検討した。ヒトの慢性肝炎、肝硬変組織において、SOCS1遺伝子のメチル化が認められ、これは肝線維化の進行とともに、頻度が増すことを発見した。また、SOCS1遺伝子のメチル化が認められた症例については、メチル化が認められなかった症例に比して肝発癌の危険性が約二倍に上昇することを証明した。さらに、これらの臨床データをもとに、SOCS1遺伝子ノックアウトマウスをもちいた実験を行った。すなわち、SOCS1遺伝子ノックアウトマウスにおいて、肝線維化、肝発癌モデルを作成したところ、SOCS1遺伝子ノックアウトマウスは、コントロール群に比して、著明な肝線維化、肝発癌を示し、SOCS1が肝線維化、肝発癌に抑制的に働き、SOCS1による慢性肝疾患の制御の可能性を示した。(Journal of Experimental Medicine 199(12)2004,DDW in USA 2004:award受賞) また、C型肝炎ウイルス感染が、耐糖能異常、糖尿病発症の危険性を増すことを、臨床データより明らかにし、さらに、C型肝炎ウイルスコア蛋白がSOCS3を誘導することにより、直接的に肝臓におけるインスリンに対する感受性を低下させていることを証明した。(American Journal of Pathology165(5)2004) 現在、さらにSOCS1、SOCS3の肝臓におけるさまざまな役割や、我々が発見した新規サイトカインシグナル抑制因子についても検討を継続中である。
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