FHIT遺伝子の機能解析のため、3種のヒト大腸癌培養細胞株(SW480細胞、DLD-1細胞、COLO201細胞)を用いて検討した。SW480細胞はFHIT遺伝子の1アレルの欠損と、他方のアレルのプロモーター領域および蛋白コード領域での一部欠損が認められ、Fhit蛋白の発現は著明に低下していた。DLD-1細胞では、両アレルのプロモーター領域の一部で相同的欠損が見られたがFhit蛋白は十分発現していた。COLO201細胞ではゲノムやcDNAなどに異常は認められなかったがDLD-1細胞に比べFhit蛋白の発現が低かった。Fhit蛋白発現が著明に低下しているSW480細胞を用いてFhit蛋白強制発現細胞株ならびにFHIT遺伝子のHITモチーフの中央のヒスチジンをアルギニンに変異させた遺伝子を導入した細胞株も作成した。このFhit蛋白強制発現細胞株は細胞増殖が親細胞株に比べ著明に抑制された。一方Fhit蛋白が十分に発現しているDLD-1細胞にRNA干渉法にて親細胞株のFhit蛋白発現を低下させると細胞数の上昇がみられた。以上の結果よりFhit蛋白が細胞の増殖に対して抑制的に働くことが示唆された。 さらにSW480細胞のFhit蛋白強制発現細胞株について実験を進めた。Fhit蛋白強制発現細胞株は過酸化水素等の酸化ストレスに対して高感受性であった。また各種薬剤処理によって細胞増殖抑制がみられた。続いて酸化ストレスにおけるFhit蛋白の役割について細胞の情報伝達シグナルを中心に検討した。Fhit蛋白強制発現細胞株は親細胞株に比べI-κB-αのリン酸化型の発現の低下が見られた。またスルファサラジン、パルセノライド等のNF-κBシグナルに対して抑制的に働く物質で処理すると、Fhit蛋白強制発現細胞株の細胞増殖が著明に抑制された。逆にNF-κBを賦活する濃度のTNF-αを前処理することにより、この効果はキャンセルされた。これらの結果からFHIT遺伝子が酸化ストレスによる細胞死に強く関与しているが、その機序としてNFL-κB系のシグナルを介していることが示唆された。
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