研究概要 |
家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia : FH)は低比重リポ蛋白(low density lipoprotein : LDL)受容体遺伝子異常により発症する常染色体遺伝性疾患である。LDL受容体のリガンドであるアポBの遺伝子異常により類似の病態を呈することが知られているが、我々の施設を含め本邦では報告がない(Nohara A et al. Lancet 1995)。我々の研究グループは、これまで北陸地方を中心に1,500例以上のFHを経験し、国内でも最も精力的にLDL受容体遺伝子異常の検索を行い、これまで37の遺伝子異常を同定してきた(Yu W et al. Atherosclerosis 2002)。しかしながら臨床的に診断されたFHの37.5%にLDL受容体遺伝子異常を認めなかった。海外でもLDL受容体遺伝子、アポB遺伝子以外の常染色体優性遺伝性高コレステロール血症の存在が想定され、未知の原因遺伝子として「3^<rd> gene mutation」と呼ばれてきた。2003年、プロテアーゼKファミリーの一つneural apoptosis-regulated convertase 1(NARC-1)をコードする遺伝子PCSK9異常症が発見された。しかしながら、これまで学会発表を含め本邦にてPCSK9遺伝子異常症の報告はない。最も効率的にPCSK9遺伝子異常を同定するために、我々が以前検討を行ったFH患者群(血縁関係のないFH200人)でLDL受容体遺伝子とアポB遺伝子をスクリーニングされ、いずれの遺伝子にも異常を認めなかった75症例を対象とした。文書による同意書を取得の後、対象者の末梢血白血球からgenomic DNAを取り出し、全エクソンに対するプライマーを設定し、PCR-SSCP法にて変異を認めたものに関し、直接塩基配列決定法により遺伝子異常を決定した。これまでの所、E32K(4例)、A53V(3例)、G263S(3例)、I474V(4例)、E670G(1例)の5つの遺伝子多型を同定した。これらの内A53V、I474V、E670Gは疾患起因性ではないことが他施設からの報告で明らかとされており、残る2つの変異については新規の変異と考えられる。健診受診者を対象にスクリーニングを行った結果、E32KはFH群で3.6%認めたのに対し、健診受診一般人で1.0%に認めた。同様にG263SはFH2.1%認めたのに対し、健診受診一般人でわずか0.2%にしか認めず、特に後者が疾患起因性である可能性が考慮され、今後家系内調査を行う方針である。一方で、新規FH患者でLDL受容体遺伝子異常が同定されていない症例、優性遺伝形式を示す原発性高脂血症も対象とし、新たな変異の検索を引き続き行う予定である。
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