研究概要 |
胎児ラット心筋培養細胞を用いた実験系でアンジオテンシンIIなどの液性因子は心筋細胞内の情報伝達系を活性化することで心筋の構成蛋白発現の増加をもたらすことが知られているが、同時にRho阻害剤(C3 toxin)を添加するとその心筋細胞の肥大は抑制される。さらにRhoファミリーであるRhoA, Rac1およびCdc42のdominant-negativeを過剰発現させたときに、dominant-negative Rac1の過剰発現で最も抑制された。その機序として、Rac1が制御しているNADPH oxidase活性およびそれによって産生される細胞内の活性酸素に着目した。NADPH oxidaseは近年、心血管系細胞の主な活性酸素供給源として多くの病態への関与が報告されているが、Rac1はこの酵素のひとつのコンポーネントとなり活性化を調節している。そこで、我々はRac1の役割を解析するため、siRNAを用いてRac1をノックダウンして解析を行った。胎児ラット心筋細胞にRac1に対するsiRNAをHVJ-envelopベクターに封入して遺伝子導入したところ、24-28時間後でのRac1のmRNA発現はほぼ完全に抑制できた。このようにRac1をノックダウンした状態の細胞ではアンジオテンシンIIあるいはフェニレフリンによってもたらされる蛋白合成(Leucineの取り込み)増加および心筋構成蛋白(alpha-myosin heavy chainやatrial natriuretic factor)のmRNA増加が有意に抑制された。また、それと同様にNADPH oxidase活性(Lucigenin Cheminoluminescence)もRac1のノックダウンによって有意に抑制されたことから、Rac1はNADPH oxidase活性を抑制することで細胞内活性酸素産生に関与していることおよびRac1の活性低下は細胞内活性酸素活性の抑制を促し、引いては心筋細胞肥大を抑制することが明らかとなった。 心筋特異的誘導型過剰発現マウスは現在作成中であり、また新しい知見を得るに至っていない。
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