胎児ラット心筋培養細胞を用いた実験系でアンジオテンシンIIなどの液性因子は心筋細胞内の情報伝達系を活性化することで心筋の構成蛋白発現の増加をもたらすことが知られているが、我々はRhoファミリーであるRac1が制御しているNADPH oxidase活性に着目した。NADPH oxidaseは近年、心血管系細胞の主な活性酸素供給源として多くの病態への関与が報告されているが、Rac1はこの酵素のひとつのコンポーネントとなり活性化を調節している。そこで、我々はRac1の役割を解析するため、siRNAを用いてRac1をノックダウンして解析を行った。胎児ラット心筋細胞にRac1に対するsiRNAをHVJ-envelopベクターに封入して遺伝子導入したところ、アンジオテンシンIIあるいはフェニレフリンによってもたらされる蛋白合成増加および心筋構成蛋白のmRNA増加が有意に抑制された。また、それと同様にNADPH oxidase活性もRac1のノックダウンによって有意に抑制されたことから、Rac1はNADPH oxidase活性を抑制することで細胞内活性酸素産生に関与していることおよびRac1の活性低下は細胞内活性酸素活性の抑制を促し、引いては心筋細胞肥大を抑制することが明らかとなった。また、血管内皮細胞においてもサイトカイン刺激でNAPDH oxidaseの活性化がもたらされることが確認され、一酸化窒素の産生抑制および活性化阻害作用を有することも分かった。 このような培養細胞での結果を動物モデルで作成するために誘導型過剰発現マウスの作成を試みたが、タモキシフェンを腹腔内投与することによるCre蛋白の核内移行効率が悪く、未だに充分な過剰発現が得られていない。近年、エストロゲン受容体よりもグルココルチコイド受容体を用いたシステムの方が核移行効率が良いことも知られており、システムの改良が必要である可能性がある。もうひとつの原因としては、1つにはゲノムのエピジェネティックな修飾によってLoxPサイトへのCre蛋白のアクセスが困難になっていることが考えられた。
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