研究概要 |
心臓線維芽細胞(以下線維芽細胞)が心筋保護因子を産生するという仮説の元に、分離心筋細胞を用いた細胞学的検討とランゲンドルフ灌流心モデルを用いた生理学的検討を行った。 1)細胞学的検討 新生仔ラット心筋細胞の低酸素条件下における培養実験(72時間)において、線維芽細胞培養上清を用いた群では対照群(血清無添加DMEM)に比べ有意に心筋細胞の生存率が高かった(41.4±3.6%vs.20.5±1.2%,P<0.01)。このような低酸素負荷に対する心筋細胞保護効果は培養時間12時間以降の繊維芽細胞の上清でみられ、それより短い準備時間(0〜6時間)の培養上清では効果が認められなかった。この結果は心筋細胞保護活性を持つ因子が、培養繊維芽細胞で産生、さらに分泌されることを示唆していると考えられた。 2)生理学的検討 ラットのランゲンドルフ虚血-再灌流心モデルにて、生理学的効果を検討したところ、線維芽細胞の培養上清による前処置は、左室発生圧や左室拡張末期圧などの各種パラメータを改善し、心筋虚血・再灌流傷害を軽減した。さらに心筋梗塞モデルにおいても梗塞サイズを縮小させる効果を有していた。これら線維芽細胞培養上清の心筋保護メカニズム解明の第一歩として、ミトコンドリアK^+-ATPチャネルの関与について検討した。同チャネルの開口阻害薬である5-hydroxydecanoateは上記虚血-再灌流傷害の軽減作用を減弱させた。これらの結果から線維芽細胞由来因子の心臓保護効果は、主にミトコンドリアK^+-ATPチャネル開口を介すると考えられた。 3)心筋保護物質の性状 遠心型分子量フィルターを用いて線維芽細胞培養上清を分子量5万で分離したところ、細胞培養系およびランゲンドルフ灌流モデルのどちらにおいても、分子量5万(50K)以上の分画に上述の心筋保護作用が認められた。これまでのところ目的物質の同定には至っていない。
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