βブロッカーは心機能抑制や喘息患者に対する慎重投与などの欠点を持つ。5型アデニル酸シクラーゼは心臓におけるβ受容体の下流酵素であり、この酵素を標的とした薬剤はβブロッカーの欠点を解決しうる可能性を持つが、5型アデニル酸シクラーゼの生理的機能は未だ不明である。そこで本研究の目的は5型アデニル酸シクラーゼの心筋収縮及びアポトーシスに果たす役割を解明し、また新たに開発した5型アデニル酸シクラーゼ特異的抑制薬(PMC-6)の効果について調べることである。方法:マウス及びラットの心筋初代培養を用いて、β受容体刺激時の心筋収縮及びアポトーシスをノックアウトマウス或いはPMC-6存在下で検討した。10週令マウスの分離心筋細胞を用いて、イソプロテレノール刺激時の心筋細胞収縮に対するPMC-6の効果を調べたところ、PMC-6はcAMP産生を減少させるにも関わらず心筋細胞の収縮性に影響を与えなかった。また、PMC-6はイソプロテレノールによるフォスフォランバンのリン酸化にも影響を与えず、5型アデニル酸シクラーゼは心筋収縮に関与しないことが示唆された。次に5型アデニル酸シクラーゼノックアウトマウスを用いてイソプロテレノール刺激時のアポトーシスについてTUNEL法で調べたところ、ノックアウトマウスの心筋細胞ではアポトーシスが誘導されなかった。次にPMC-6の効果を調べたところ、TUNEL法、DNA fragmentation ELISA法、caspase-3活性測定法の全てにおいてイソプロテレノール刺激によるアポトーシスを抑制した。これらより5型アデニル酸シクラーゼはβ受容体を介した心筋収縮には関与せず、アポトーシス誘導に選択的に働いていることが示唆された。結論としてPMC-6は、喘息患者にも投与可能な、且つ心機能に影響を与えない心臓特異的なアポトーシス阻害剤となる可能性が示された。
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