慢性腎不全による血液透析患者では二次的に副甲状腺機能亢進症をきたすことが少なくない。副甲状腺ホルモンは血中カルシウム濃度を増加させ血管への石灰沈着をもたらし、動脈硬化を進展させる可能性がある。本研究では、血液透析患者に見られる副甲状腺機能亢進症が、冠動脈硬化の進展や虚血性心疾患の予後に及ぼす影響について検討した。 はじめに、副甲状腺機能亢進症が経皮的経管的冠動脈形成術(PTCA)の成績に及ぼす影響について検討した。PTCAによる狭窄病変の開大は全例で成功したが、6ヶ月後の再狭窄率は副甲状腺機能亢進症例で有意に高かった。多重ロジスティク回帰分析により、冠危険因子や血液透析期間の影響を補正しても、副甲状腺機能亢進症はPTCA後の再狭窄における独立した危険因子であった。 次に、副甲状腺機能亢進症が虚血性心疾患の予後に及ぼす影響について検討した。平均3年間の経過観察期間における狭心症や心筋梗塞などの冠動脈イベントの発生率は、副甲状腺機能亢進症例で有意に高かった。比例ハザードモデルによる単変量解析の結果、副甲状腺機能亢進症は、糖尿病や高脂血症、肥満とともに、冠動脈イベントの発生の危険因子であった。また多変量解析により、これらの影響を補正しても、副甲状腺機能亢進症は冠動脈イベントの発生における独立した危険因子であった。 以上から、血液透析患者の副甲状腺機能亢進は、冠動脈の石灰化を介して動脈硬化の進展に関与し、PTCA後の再狭窄や冠動脈イベントの発生における独立した危険因子であることを明らかにした。慢性腎不全による血液透析症例では、虚血性心疾患の発生頻度が高いといわれるが、その理由は未だ明らかにされていない。本研究は、血液透析患者における冠動脈硬化の進展の機序や虚血性心疾患の危険因子の解明において新たな知見を加えた。
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