心筋細胞内Ca^<2+> handlingの調節には多くの蛋白質が関わっており、中でも筋小胞体のCa^<2+>ポンプであるSERCA2a(心筋筋小胞体Ca^<2+>-ATPase)は中心的な役割を果たしている。これまでの遺伝子変異動物を用いた研究では主として慢性心不全に関する研究は多いが、急激に起こる心機能の低下の原因に関する研究は少ない。そこで今回、SERCA2a選択的過剰発現心筋を用いて、急性の収縮不全や拡張不全を起こす病態時に、SERCA2aの選択的機能亢進が細胞内Ca^<2+> handlingと収縮調節がどのような影響を受けるのかについて調べた。急性収縮不全をきたす病態として、呼吸性(CO_2)アシドーシスを用いた。アシドーシスならびにアシドーシスからの回復時における細胞内Ca^<2+>と収縮張力を、SERCA2a過剰発現心筋と正常心筋とで比較した。アシドーシス時の収縮抑制に対しても、またアシドーシスからの回復時の収縮維持に関してもSERCA2a過剰発現心筋は正常心筋よりも収縮低下が抑制された。一方でSERCA2aの活性はフォスホランバンのリン酸化によって調節されている。このリン酸化はアドレナリンβ受容体を介したPKAの活性化によって調節されている。SERCA2a過剰発現マウスではアドレナリンβ受容体刺激によってCa^<2+>取り込みの更なる活性化は起こらなかった。またアシドーシスでの実験において正常心筋にアドレナリンβ受容体刺激をした状態では、アシドーシス中の収縮低下は抑制されたが、アシドーシスからの離脱時に80%を超える不整脈が発生した。SERCA2a過剰発現マウスは、虚血性心疾患に関連するアシドーシスにおいて、収縮低下を抑制し、アシドーシス離脱時の不整脈発生も抑制した。これらの結果はSERCA2a選択的活性化が、虚血性心疾患に対して非常に有用な対処法の一つであることを示している。
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