過剰のエネルギー摂取により誘発される肥満症あるいは糖尿病は現代人にとって最も身近な生活習慣病となっているが、両疾患とも時に呼吸中枢の機能低下による重症型の呼吸不全を引き起こす。肥満低換気症候群および糖尿病性呼吸不全は、ともに呼吸中枢の機能低下が基本的病態と考えられており、低酸素換気応答不全が顕著であること、肥満が糖尿病の原因の一つであること等から共通の病因・病態が存在する可能性がある。しかし、これらの病態や発症メカニズムは不明であり、またその病因に関して肥満・糖尿病におけるどの因子が直接関わっているのか全く解明されていない。そこで、今年度は糖尿病モデル動物について、1.免疫組織学的手法を用いた呼吸機能検査と、2.呼吸関連神経核の遺伝子発現解析を行った。1に関しては、ストレプトゾトシン誘発糖尿病態ラットに低酸素負荷を行い、呼吸関連神経核のcFos蛋白発現陽性ニューロン数を指標に呼吸中枢機能を調べた結果、糖尿病ラットでは、延髄呼吸中枢を構成する孤束核(延髄背側呼吸群)と疑核(延髄腹側呼吸群)におけるcFos蛋白発現陽性ニューロン数が、正常ラットに比較して減少することが明らかになった。これらの結果は、すでに報告したプレチスモグラフによる検査結果と平行しており、糖尿病ラットにおいて低酸素負荷に対する応答が低下していることがニューロンレベルで確認された。1の結果より、呼吸中枢への神経性入力の変化が想定されたことから、2の呼吸関連神経核の遺伝子発現解を行った。その結果、孤束核においてNMDA受容体およびサブスタンスP受容体のmRNA発現量が上昇していることが明らかになった。現在、糖尿病あるいは低酸素負荷、およびその両者によって脳全般に生じる遺伝子発現パターン変化についてDNAアレイ法により解析している。
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