研究概要 |
進行性腎障害により維持血液透析に導入される患者数は本邦にて年々増加しているが、腎移植ドナー数も需要を下回っており新規の腎障害進展制御法の開発が医療財政上からも急務である。種々の原疾患より末期腎不全に至るが、共通した組織学的変化は糸球体硬化・尿細管間質の線維化である。Angiotensin II(A-II)は主にI型受容体を介し血管収縮・昇圧作用を有し、腎疾患進展に関与する。A-II-infusionラットモデルにおいて単球浸潤・線維化等の腎尿細管間質病変を認める。一方A-II-infusion開始5日後に可逆性増殖性腎炎モデルであるラット抗Thy-1腎炎を惹起するとメサンギウム細胞増殖・基質増加が抑制される。近年、A-IIが1型受容体を介し下肢虚血モデル等にて血管新生を誘導することが報告されたが、腎障害の進展過程におけるA-IIによる血管新生関連因子発現調節及びその病態における意義に関しては詳細な検討がなされていない。浸透圧ミニポンプにてA-IIを2週間持続投与した群では、正常群・norepinephrine投与高血圧対照群に比して有意な腎間質線維化・ED-1陽性単球マクロファージ浸潤の増加を認めたが、AT1受容体拮抗剤(losartan)もしくはAT2受容体拮抗剤(PD123319)投与により抑制された。免疫染色及びimmunoblotを用いて血管新生関連因子VEGF, Angiopoietin-1(Ang-1),-2の発現変化を検討した。A-II-infusion群にて有意なVEGF, flk-1,flt-1受容体及びAng-1発現増加を認め、losartan及びPD123319により抑制されたが、Ang-2発現増加は認めなかった。Tie-2(Ang-1受容体)発現はAT2受容体依存性にA-II-infusion群にて発現増加を認めた。A-II-infusion群においてAng-1/2比の増加による血管安定化機序が働く一方、VEGF及び受容体発現増加による傍尿細管毛細血管透過性亢進・炎症細胞浸潤の機序により、間質病変が進展するものと考えられた。 次に、A-II-infusion後ラット抗Thy-1腎炎モデルにおける血管新生関連因子の発現変化と糸球体内皮細胞・係蹄の修復、増殖性腎炎変化の抑制との関連性を検討した。A-II-infusion+抗Thy-1腎炎群では、Thy-1腎炎群に比してday 6の時点で糸球体細胞数・メサンギウム基質蓄積・単球マクロファージ浸潤が抑制され、RECA-1陽性糸球体内皮細胞領域の回復作用を認めた。A-II-infusion+抗Thy-1腎炎群にてVEGF, flk-1,Ang-1,Tie-2発現の増加を認め(免疫染色,immunoblot)、その作用はAT1及びAT2受容体を介していた。以上の結果より、A-IIの血管新生誘導作用による糸球体係蹄内皮細胞修復促進機序が考えられた(Takazawa Y, Maeshima Y, et al.,Kidney Int.2005,in press)。 さらに、Ang-1発現アデノウィルスベクターを精製し、マウスの筋肉内投与したところ1週間後の血中Ang-1濃度の上昇を認めた。片側尿管結紮マウス(間質障害モデル)の筋肉内に同ウィルスベクターを投与した。3日及び7日後の腎間質線維化は対照群(Ad-LacZ投与)に比してAng-1発現アデノウィルスベクター投与群にて有意に抑制された。現在、作用機序の解析を進めているが、Ang-1による血管安定化作用に伴う炎症細胞浸潤の抑制等の機序が示唆される。
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