パーキンソン病をはじめとするsynucleinopathyの病態解明のため、培養ヒト神経芽腫細胞SH-SY5をを用いてαシヌクレイン過剰発現細胞モデルを作成し、細胞内凝集物形成と細胞死との関連を検討した。同細胞を既知の種々の酸化的ストレッサーに暴露させ凝集体形成の頻度を検討した結果、2価の鉄イオンが最も効率よく細胞内凝集を惹起させることを確認した。さらにこの細胞をレチノイン酸・BDNFで分化誘導し、分裂増殖を停止させることで高率に大型の凝集体を形成可能なことを見出した。凝集体はユビキチン、ニトロチロシン、ユビキチン、脂肪染色陽性であり構成蛋白は酸化的修飾を受けていること、また患者脳内の神経細胞中にみられるLewy小体を模倣したものと推察された。また凝集体はMTOCのマーカーであるγチューブリン、分子モーターダイニンと共存していること、微小管重合阻害剤であるノコダゾールの培地への添加が凝集抑制をもたらすことなどから、その形成過程に所謂アグレソーム等に代表される微小管を介した細胞内能動輸送系が関与していることが示唆された。さらにノコダゾールによる凝集体形成抑制時にアポトーシスが有意に促進されること、また凝集体陽性細胞と活性型caspase 3陽性細胞はほとんど一致しないことも確認した。これらの実験結果は、蛋白凝集体形成自体は、細胞が自らを防御する生理的反応であることを強く示唆するものと考えられた。本細胞モデルはsynucleinopathyの病態解析、および種々の薬物のスクリーニングに有用であると考えられた。
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