黒質線条体ニューロンの神経伝達物質であり、強力な酸化的ストレッサーであるドパミン(以下DA)はパーキンソン病の病態機序を考える上で鍵を握る物質である。DAはその酸化物であるキノン体を経てメラニンに変換される過程で多くのReactive oxygen speciesを産生し、脂質・タンパク質の過酸化、ミトコンドリア呼吸鎖やDNAの傷害をもたらし神経細胞死を惹起することが知られている。さらにDAキノンはLewy小体の主要構成成分であるα-シヌクレインと複合体を形成し、細胞毒性の高いプロトフィブリル産生を惹起するといわれている。我々はパーキンソン病における黒質神経細胞死の病態を明らかにする目的で、メラニン合成の律速酵素であるチロシナーゼの発現をin vivoで操作可能な細胞モデルを作成した。ヒト神経芽腫細胞SH-SY5Y内で過剰発現されたヒトチロシナーゼタンパクはライソゾームと推定されるコンパートメントに集簇し、(1)細胞内DA、メラニン含量の増加をもたらし、(2)ドーパオキシダーゼ、DAオキシダーゼ双方の触媒機能を有し、(3)細胞質内に黒質細胞のneuromelaninに酷似した色素顆粒を生じさせること、さらに(4)細胞内ROSの増加をもたらすことを確認した。さらに、この細胞に野生型及びA53T変異型α-シヌクレインを共発現させることで、(i)DA酸化物で修飾を受けたα-シヌクレインオリゴマーの形成が促進されること、(ii)MAPキナーゼ系のリン酸化に先立ってミトコンドリアからのチトクロームの放出およびこれに続くミトコンドリア膜電位の低下が惹起されるとともに、(iii)アポトーシスが促進されることを明らかにした。本細胞モデルはシヌクレイノパチー神経細胞死におけるカテコール酸化物の関与を解析する上で有力なツールとなることが期待される。
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