研究概要 |
過去3年間に当院を受診した急性脳炎・脳症患者[n=13,男性:女性=5:8,平均年齢=43歳,NPNHLE(non-paraneoplastic, non-herpetic limbic-encephalitis)=4例,etiology-unkown encephalomeningitis=1例,anti-Hu antibody positive paraneoplastic-limbic encephalitis=1例,bacterial encephalomeningitis=1例,MELAS=1例,cryptococcal encephalomeningitis=1例,Neuro-Sweet disease=1例,CNS lupus=3例]に対しGluRε2分子全長を発現する培養細胞のホモジネートの上清を抗原として免疫ブロット法を施行した。うち4例の患者の急性期のみ髄液中にIgM型抗GluRε2抗体を認めた。これら4症例は臨床および検査所見上、可逆性辺縁系脳炎の特徴を有した。一方、2例のCNS lupus患者の血性および髄液中にIgG型抗GluRε2抗体を認めた。 IgM型抗GluRε2抗体陽性の患者血清を一次抗体とした、ラット脳の免疫組織化学的分析では海馬および大脳皮質の神経細胞および樹状突起近位部が染色性を示した。GluRε2抗原を用いた吸着試験で確認された。免疫組織学的に患者血清が染色性を有した部位は、過去の報告では前脳部位とされるGluRε2抗原の発現部位に矛盾するものではなかった。 以上の結果より発症急性期に髄液中のIgM型抗GluRε2抗体が陽性を示し、後に陰性化する急性脳炎患者は臨床および検査所見上、可逆性辺縁系脳炎の特徴を有すると考えられた。また2例のCNS lupus患者でIgG型抗GluRε2抗体が血性および髄液中で陽性を示したことに関しては、過去にCNS lupus患者の血清中に存在する抗二本鎖DNA抗体がGluRε1およびε2の共通抗原に対し交叉反応性を示したとする報告^<1)>があり、この2症例においても血清中のIgG型抗二本鎖DNA抗体が陽性を示しており、同抗体がGluRε2抗原を認識している可能性が示唆された。また同抗体が海馬の神経細胞に結合し細胞死がもたらされた結果、記憶学習能力の低下をみたとするマウスを用いたin vivoの実験報告^<2)>もあり、今回得られた免疫組織学的知見を含め抗GluRε2抗体が精神症状や痙攣発作などの病態に何らかの関与をしている可能性が示唆された。 参考文献)1)DeGiorgio L.A. et al. Nature medecine 2001. 2)Kowal C. et al. Immunity 2004.
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