研究概要 |
経頭蓋磁気刺激(TMS)は非侵襲に中枢神経を刺激して錐体路機能評価の他に,うつ病をはじめとする精神疾患やパーキンソン病,脊髄小脳変性症,神経リハビリテーションなどの治療目的で臨床応用が期待されている.体性感覚誘発高周波応答(high frequency oscillation ; HFO)は体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential ; SEP)のN20の主にascebding slopeに重畳する500-800Hzの電位である.前半部は視床,視床皮質路由来であり,後半部はBA 3bの第4層にあるGABA抑制性ニューロン,又は第3層にあるChattering錐体細胞などが起源であると推定されている. Theta burst stimulation(TBS)は動物実験ではシナプスの可塑性に影響を与えることが知られ,ヒトの運動野に対するTBSでは数十秒から数分の刺激によって運動神経シナプスの可塑性に影響を与えることを証明し,効果が数十分から一時間程度持続することがわかっている.非常に短時間の刺激で脳の可塑性に変化をきたす方法の治療応用への可能性を検討するべく本年度においてはTBS前後における体性感覚誘発電位の変化について検討を行った.18人の健常成人を対象とし,TBS前後での両側正中神経刺激にてSEPを測定した.SEP測定の方法については平成16年度のものを踏襲した.TBSは200msec間に50Hzの刺激を3回行うことをひとつの単位とし,それを2秒間刺激して8秒間休むを繰り返し合計600回刺激するまで継続する方法をiTBSとし,連続的に600回刺激する方法をcTBSとした.刺激部位はM1とし,刺激強度は80%AMTとした. Motor evoked potential(MEP), Short-latency intracortical inhibition(SICI)はiTBSでは増大傾向,cTBSでは減少傾向を認めた.HFOについてはiTBSにて刺激側で有意に振幅増大を認めたが,cTBSについては有意に減少した. TBSではMEPとSICI,HFOの動きが相関していた.SICIにはGABA抑制性ニューロンが関与しているとされており,HFO, SICIの両者に同方向め変化をきたしたことはTBSによりGABA抑制性ニューロンへの変化をきたすと考えられた.HFOの変化についてはiTBSによる促通効果は前半部に強く,cTBSによる抑制効果は後半部に強く見られた.HFOの前半部は視床,視床皮質路など皮質下由来であり,後半部は皮質領域由来と考えられ,TBSではまず表層に近い皮質神経細胞の可塑性に変化を与えて,二次的に深部である皮質下領域に影響が伝播する可能性があると考えられた. 平成16年度の結果と合わせ,TMSにはSensorimotor integrationをmodifyする作用が確認できた.Restless legs syndrome(RLS)において磁気刺激治療を行った.運動閾値,MEP振幅,SICIについては健常人と差がなかった.M1への10Hz,1500発の治療を行った. 足が勝手に動く症状,RLSの自覚症状,QOL, CGI(Clinical Global Impressions)について問診により変化をたずねた.結果としては明らかな前後での変動は認めなかったが副作用も認めていない.
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