Superoxide dismutase 1(SOD1)の遺伝子変異が原因である家族性筋萎縮性側索硬化症は、運動ニューロン及びアストロサイトにおいて凝集体が観察されるなど、コンフォメーション病としての特徴を持つ。病態における凝集形成はコンフォメーション異常の変異SOD1がシャペロンやプロテアソームなどのタンパク質品質管理システムの処理能力を上回る結果であり、凝集体形成を促進する物質の関与が推測される。これらのことから、変異SOD1の凝集における不飽和脂肪酸の効果を試験管内で検討した。SOD1にアラキドン酸を加え、凝集に及ぼす影響を検討した結果、holo酵素においては凝集物が観察されなかったが、apo酵素は変異と関係なく、アラキドン酸の濃度依存的に凝集した。アラキドン酸を加えていないコントロールにおいて、凝集物は見られなかった。また、アラキドン酸だけではなく、オレイン酸、リノレン酸も同様の凝集促進効果がみられたが、飽和脂肪酸はその効果が見られなかった。SOD1の凝集をグリセロール密度勾配遠心法により確認したところ、およそ80%程度のSOD1が400kDa以上の凝集物を形成した。holo酵素を熱処理した後、凝集を誘導した結果、変異SOD1は著しく凝集したが、野生SOD1は変化がなかった。固相法により、SOD1と不飽和脂肪酸との結合を解析した結果、apo-SOD1及び熱処理した変異SOD1はオレイン酸と結合したが、holoの野生SOD1は結合しなかった。不飽和脂肪酸によるSOD1の凝集物を電子顕微鏡で観察した結果、粒子様構造であった。また、これら粒子様凝集物を培養細胞に加えたところ、著しい細胞毒性が示された。これらの結果は、不飽和脂肪酸がコンフォメーション病である家族性筋萎縮性側索硬化症において、不飽和脂肪酸が関与する可能性があると考えられた。
|