現在、日本の食生活の欧米化に伴い糖尿病、高血圧などの生活習慣病患者の急速な増加が社会問題になっている。本研究では、生活習慣病の発症メカニズムの解明とともにそのメカニズムから新規な生活習慣病、特に糖尿病に対する治療法の確立を目的に研究を行なった。 生活習慣病の発症の一因として、摂取した食物の体内でのエネルギーへの代謝異常が考えられている。この異常の長期的なスパンによる病態の悪化が発症へと結びつく。この長期的な異常には代謝調節を司る酵素の発現調節の異常が原因となる。本研究では、代謝調節に関わる遺伝子のプロモーター領域によく保存された配列をもとにスクリーニングを行ない新規なエネルギー代謝調節転写因子としてTFE3を同定した。TFE3は現在までにエネルギー代謝における機能は報告されておらず、エネルギー代謝において新規な転写因子であった。TFE3はほぼすべての臓器に発現し、糖尿病モデルマウス、ob/obマウスの白色脂肪組織において発現が増強されており、栄養条件の変化によりその発現量を変化させた。このことから、TFE3がエネルギー代謝に関与することが推測された。 糖尿病モデルマウスではインスリンシグナル分子のIRS-2の発現の低下が糖尿病発症原因として知られている。IRS-2のプロモーター上にTFE3の結合部位を見い出した。IRS-2プロモーターを用いたルシフェラーゼアッセイおよびゲルシフトアッセイによりTFE3がIRS-2プロモーターへの直接的な作用し、IRS-2の発現を上昇させることを明らかにした。TFE3の組み換えアデノウイルスを作製し、ラット初代肝細胞に遺伝子導入した。TFE3の発現によりIRS-2の発現も上昇し、その下流因子であるAktの活性化を示した。それに伴いインスリンによるグリコーゲン合成も増強されインスリンシグナルの増強が見られた。以上から、TFE3はIRS-2の発現を誘導することでインスリンの感受性を増強することが明らかになった。
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