研究概要 |
近年、食生活の欧米化に伴い日本においても、糖尿病・高脂血症・高血圧などの生活習慣病患者の急速な増加が社会問題となっている。本研究では、生活習慣病の治療標的の探索とその因子による生活習慣病に対する影響を検討し、新たな生活習慣病治療法・治療薬の開発に繋げることを目的とし研究を行った。 生活習慣病の発症原因の一つに新たなエネルギー代謝遺伝子群の発現を制御する転写因子をスクリーニングし、TFE3を同定した。TFE3は糖尿病・高脂血症に関与する遺伝子(IRS-2,HKIIおよびInsig-1)の発現を制御した。IRS-2の発現の低下は高脂血症の原因であるSREBPにより引き起こされ、糖尿病を引き起こすことを報告している(Ide T et al. Nature Cell Biology 2004)。TFE3は逆に発現を上昇させることから糖尿病の改善効果が見込まれる。また、HKIIはグリコーゲン合成を増強させ、血中グルコースの低下を引き起こす。これらの効果は糖尿病の病態を改善させる期待がもてる。さらに、Insig-1は高脂血症の原因、SREBPの機能を阻害することが知られており、高脂血症に対しても改善効果が期待される。実際、TFE3を肝臓で過剰発現させた糖尿病モデルマウスではその病態が上の遺伝子の発現の上昇に伴い改善が見られた(Nakagawa Y et al. Nature Medicine 2006)。以上の結果から、TFE3は糖尿病・高脂血症の2つの病態の改善に働くキー遺伝子であることが明らかにされた。 今後は、肝臓以外の脂肪・骨格筋などのエネルギー代謝責任臓器においてもTFE3の生活習慣病への影響を検討し、体全体での統合的な解析から、さらにTFE3の糖尿病治療の可能性を探る。
|