研究課題
メタボリックシンドロームではTNF-αや高インスリン血症が骨格筋で糖取り込みを障害するのみならず、内皮機能障害をきたすことで耐糖能障害や高血圧を惹起する事が報告されている。その分子機序として、IRS-1のセリンリン酸化によりインスリン情報伝達におけるPI3キナーゼ/Akt経路が選択的に抑制されることが報告された。また、TNF-αによるeNOSの蛋白量およびPI3キナーゼ/Akt経路抑制によるeNOSリン酸化の低下により内皮機能障害をきたすことが報告されている。しかし、骨格筋と血管障害の両者を結びつける共通の分子機序は明らかでない一方、Rhoキナーゼは血管のCa^<2+>感受性亢進により昇圧機序に関与し、Rhoキナーゼの活性化がIRS-1のセリンリン酸化を介してPI3キナーゼ/Akt経路を抑制することが細胞レベルで報告された。そこで生体内でのRhoキナーゼの役割を検討したところ、Zucker肥満ラット骨格筋でRhoキナーゼが活性化しており、Fasudil(Rhoキナーゼ阻害薬)が降圧のみならず耐糖能改善ならびに骨格筋のPI3キナーゼ/Akt経路を改善した。更に培養骨格筋細胞を用い、インスリン、TNF-αにより惹起されたIRS-1のセリンリン酸化はRhoキナーゼ阻害薬で抑制され、骨格筋のインスリン抵抗性にRhoキナーゼの関与が示唆された。また、肥満ラットではAChに対する骨格筋血管拡張反応が減弱していたが、非降圧量であるFasudil 3mg/kgの4週間の投与で75.0%の改善を認めた。内皮機能改善機序を検討するため、HUVECを用いたところ、TNF-αによりRhoキナーゼ活性の亢進、eNOS発現量の低下、インスリン刺激によるeNOSのリン酸化の抑制が観察され、これらの変化はRhoキナーゼ阻害薬により改善した。以上の検討により、メタボリックシンドロームではTNF-αや高インスリン血症によりRhoキナーゼが活性化し、その結果、骨格筋レベルでは糖取り込み不全を生じ、血管レベルではeNOSの不活化による血管拡張不全や、Rhoキナーゼ自身の活性化を介して血管収縮、高血圧、心血管リモデリングを生じ心血管疾患の発症に寄与すると考えられた。
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Annual Meeting of the American Heart Association 2004, New Orleans 110
ページ: III-165