本研究では、腸管におけるビタミンD受容体(VDR)遺伝子の発達段階特異的発現制御機構の解明を試みた。すでに我々は、ヒトVDR遺伝子のプロモーター解析により、腸管特異的エンハンサー領域を同定し、ホメオボックス遺伝子であるCdx-2がVDR遺伝子の小腸での発現に重要は働きをしていることを明らかにした。同定したヒトVDR遺伝子の腸管特異的エンハンサー配列を含む合成DNA断片およびコア配列に変異を導入した合成DNAをビオチン化し、離乳後(3週齢)のラット小腸粘膜から抽出した核蛋白質と反応させ、アビジンビーズを用いてエンハンサー配列に結合する因子群の精製を行った。精製した核タンパク質画分をそれぞれ2次元電気泳動で分離し、銀染色法にて染色後、得られたスポットのパターンを2次元ゲル解析ソフトで解析した結果、複数の異なるスポットを得た。これらスポットを解析した結果、小腸上皮細胞特異的発現を示すKruppel-like factor 4[KLF4]を見出した。そこで、VDR遺伝子プロモーター活性に及ぼす影響をルシフェラーゼ法により検討した結果、KLF4タンパク発現量に依存したVDRプロモーター活性の上昇が確認された。また、デリーション解析の結果、KLF4は、VDRプロモーター上のSp1結合領域(GC-box)に結合し、転写調節することが明らかになった。さらに、ヒト大腸癌由来上皮細胞株、Caco-2細胞を用いてCdx-2抗体による免疫沈降を行った結果、KLF4の共沈が確認された。しかしながら発達段階におけるKLF4発現をノーザンブロット法により確認した結果、離乳期前後においては変動しなかった。TGFやWntによりリン酸化修飾されることから、離乳後のVDR発現上昇は、Cdx-2およびKLF4のタンパク修飾が重要である可能性が考えられる。 以上のことより、KLF4はVDR遺伝子発現調節因子であり、Cdx-2と協調的に腸管特異的発現を制御することが明らかになった。また、Cdx-2、KLF4およびVDRは、発癌制御に関わることが知られていることからCdx-2およびKLF4はVDRを介したビタミンDよるカルシウム吸収作用だけでなく癌抑制作用においても重要であると考えられる。
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