研究概要 |
性ステロイドホルモンであるエストロゲンは女性生殖系臓器の発達、機能調節に重要な働きを担っている他に、乳癌や子宮内膜癌の増殖、骨粗鬆症の予防効果などを有し、様々な疾患に関わると考えられている。エストロゲン剤および抗エストロゲン剤(SERM)が臨床応用されているが、組織によっては抗エストロゲン剤がエストロゲン様の活性を有することが問題となっており、そのメカニズムの解明が望まれている。本研究は転写因子であるエストロゲン受容体(ERα,ERβ)の活性調節機構ならびにエストロゲン応答遺伝子の機能を明らかにすることによってエストロゲンやSERMの組織特異的な作用機構を解明することを目的とした。本研究において、細胞増殖因子の刺激によってリン酸化されるERαの118番目のセリン残基の脱リン酸化酵素としてPP5を始めて同定し、PP5によるERαの負の制御機構を明らかにした(Mol.Endocrinol.18:1131-43,2004)。また、本年度においては、エストロゲン応答遺伝子として単離されたCOX7RPが子宮内膜癌由来のlshikawa細胞においてエストロゲン誘導性の発現を示し、同時にSERMであるタモキシフェンによっても発現誘導されることを見出した。一方、COX7RPタンパクはミトコンドリアに局在することを明らかにした。これらの結果より、COX7RPはERによって直接制御される応答遺伝子であり、ミトコンドリアの機能に関与することが示唆された。本研究によってERの脱リン酸化による新たな機能調節機構ならびにエストロゲン応答遺伝子COX7RPの制御を解明できたことは、エストロゲンが関与する疾患・癌におけるPP5とCOX7RPの新たな役割を示唆することができたと考えられた。
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