C反応性蛋白質(CRP)等の炎症性メディエーターは冠動脈疾患や糖尿病、慢性関節リウマチ患者などの血中で高値を示し、また動脈硬化病変部にも高頻度に観察されることなどから、血管内皮機能や血管病変の形成に関与する可能性が示唆されている。上記疾患は、難治性の疾患として知られ、その発症メカニズムの解明、ならびに治療法の確立が急務とされていることから、本研究では、炎症性メディエーターが血管内皮細胞の活性化や血球細胞の内皮下への浸潤に及ぼす影響について解析するとともに、その治療に関する基礎検討を行った。 昨年度までの研究で、CRP等の炎症性メディエーターの刺激によりヒト単核球に凝固促進因子の組織因子(TF)が発現し、この発現にNF-κBが関与する結果を得ている。本年度は、血管病変の形成に関与する各種炎症性メディエーターの中でも、炎症性サイトカインとして腫瘍壊死因子(TNF)に関して、その炎症性疾患に関与するシグナル伝達機構に関する詳細な検討を行った。さらに当該研究過程の中で、炎症の阻害に関連する機能性人工蛋白質を新規に見出し、その炎症に対する阻害効果を検討した。その結果、このTNFアンタゴニストとも言うべき機能性人工蛋白質は、ヒト血管内皮細胞におけるNF-κBの活性化を抑制するのみならず、そのシグナル伝達の下流に位置するE-selectinの遺伝子発現を抑制することが明らかとなった。このE-selectinは血球細胞の内皮下への浸潤を促進する分子としても知られており、炎症性メディエーターが血管の内皮下への浸潤を協調的に促進している可能性が示唆された。また通常、感染等の炎症時には、この血中CRPの上昇のみならず、TNFの血中濃度も上昇していることが知られており、炎症の増悪化にTNFが関与することからも、本研究課題で作成し得た、このTNFアンタゴニストは、血管病変の形成を抑制する可能性が示唆された。現在、この機能性人工蛋白質を用いた炎症性疾患に及ぼす影響を解析中である。
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