多くの遺伝子の転写制御は、ヒストンアセチル化酵素(HAT)とヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)のバランスの上に成立している。特にヒストンのアセチル化はDNA複製、転写、DNA再配列などクロマチン構造の変化を伴うさまざまな生物反応に関わっている。HDAC阻害薬はヒストン脱アセチル化酵素活性を阻害することによって、ヒストンもしくは非ヒストンタンパクをアセチル化し、遺伝子の転写を促進させる薬剤である。今回われわれは、ヒストン脱アセチル化酵素を標的にし、その阻害によって、特に慢性骨髄性白血病(CML)に対する抗腫瘍効果をもたらすメカニズムを解析した。はじめにHDAC阻害薬のひとつであるdepsipeptide(FK228)のBCR/ABL発現TF-1-BCR/ABL細胞のアポトーシス誘導効果についてAPO2.7を用いて解析した。親細胞株のTF-1と比較してTF-1 BCR/ABL細胞では有意なアポトーシス誘導効果の増加が確認された。FK228の投与により、ヒストンのアセチル化が時間、濃度依存性に認められ、さらにBCR/ABL融合蛋白、HSP90、STAT5及びP53のアセチル化が確認された。さらにBCR/ABL融合蛋白はFK228による時間依存性のdegradeが確認された。細胞周期の解析では、G2/M期で停止が認められた。またsrc、MAPKの活性化はFK228の投与により抑制されたが、p38MAPKの活性化が認められ、またJNKの活性化はみられなかった。アポトーシス関連分子に関してはCaspase3、Caspase9、PARPの活性化が確認された。またinhibitor of apoptosis (IAP)のmRNAの減少がみられた。FK228の投与によりp38MAPKの活性化が認められたが、p38のinhibitor処理においても細胞周期、アポトーシス、caspaseの活性化に変化がみられなかったことから、p38はFK228作用に直接関与していないことが示唆された。FK228はimatinib耐性症例の細胞に対しても抗腫瘍効果があることを確認した。以上より、FK228はBCR/ABL融合蛋白をアセチル化し、BCR/ABL融合蛋白を崩壊することによりBCR/ABL発現細胞における有意なアポトーシス誘導をもたらすと考えられ、imatinib耐性化症例に対するFK228の有用性が示唆された。
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