ニーマン・ピック病C型(NPC)は常染色体性劣性脂質代謝異常症の神経難病である。細胞内リソソームからのコレステロール輸送蛋白質NPC1、NPC2の欠損によりコレステロールや他の脂質がリソソーム内に異常蓄積することを特徴とするが、神経細胞内の蓄積が直接的に神経変性を引き起こすかは明らかでない。また、治療法も確立されていない。 酵母のヒトNPC1相同遺伝子NCR1変異株を用いDNAマイクロアレイ解析を行った結果、ヒト銅代謝異常症であるメンケス病、ウイルソン病原因遺伝子の酵母相同遺伝子ccc2を始め細胞内銅代謝関連遺伝子の上昇が認められた。哺乳類NPCモデル細胞株であるNPC1遺伝子欠損チャイニーズハムスター卵巣細胞では正常細胞にくらべ細胞内銅濃度が著しく減少していた。メンケス病原因蛋白質(MNK)は細胞内銅輸送蛋白質であり、通常状態ではゴルジ体に存在し、細胞質の銅を結合した後細胞膜に移行し細胞外に銅を排出する。その後再びMNK蛋白質は細胞膜からゴルジ体へ戻る過程を経るが、NPC1欠損細胞では正常細胞に比べこのゴルジ体への移行(リサイクリング経路)の遅れを認めた。このことは、NPC1欠損細胞ではMNK蛋白質が過剰に細胞膜へ移行することにより細胞内銅濃度の低下を導いている可能性を示唆する。また、ライソトラッカーは活性に伴い細胞内ライソゾームを染色するdyeの一つであるが、ひとメンケス病患者由来繊維芽細胞(3細胞)いずれもライソトラッカーの染色性が著しく減少していることを見出した。 今後はNPC1欠損細胞でMNK蛋白質の移行がなぜ遅れるか、分子レベルの詳細な機能解析を行う。また、培養神経細胞を用いた銅を標的とした基礎的な治療実験を行って行く。
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