研究概要 |
ニーマン・ピック病C型(NPO)はライソゾーム蓄積症の一つで、細胞内脂質輸送蛋白質NPC1、NPC2の遺伝的欠損により起こる神経難病である。コレステロール、ガングリオシドなどの細胞内脂質蓄積が病態として知られている他、神経変性に至る分子機構は不明である。また、一部のニューロステロイドがモデルマウスに対し延命効果があるという報告の他は、現時点で神経症状を改善できる根本的な治療法は確立されていない。ヒトNPC患者家系のうち95%はNPC1遺伝子変異によるが、このNPC1遺伝子はマウス、ハエ、線虫、酵母に至るまで進化的に保存された相同遺伝子があることが分かっている。これまで私たちの研究により、酵母相同遺伝子変異株でスフィンゴ糖脂質代謝に異常があることを報告してきた(Malathi et al.,2004)。また、この酵母変異株を用いたDNAマイクロアレイ解析から、複数の細胞内銅代謝関連遺伝子が上昇していることも見いだした(未発表データ)。NPC1遺伝子を欠損したチャニーズハムスター卵巣細胞(CHO-NPC1trap)における細胞内銅濃度を測定した結果、正常細胞に比べ低い値を示した。また、細胞内銅放出蛋白質で、ヒト銅代謝異常症メンケス病原因遺伝子であるATP7A遺伝子産物MNK蛋白質の細胞内局在を調べた結果、NPC細胞ではMNK蛋白質が恒常的に活性化されていることが分かった。これらの結果はNPC細胞が銅枯渇状態であることを示しており、銅代謝異常とNPC神経変性との関連性を示唆する。また最近アルツハイマー病における銅代謝異常が報告されていることから、他の神経変性疾患でも細胞内銅代謝と神経細胞障害の関係が明らかになっている。今後は細胞および動物個体に対し、銅付加による神経保護効果の検討を行う予定である。
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