トロンボスポンジン1アンタゴニスト・LSKLペプチドの持つ肝線維化抑制作用を、肝臓における構成細胞ごとに細胞生物学的手法を用いて検討し、その分子メカニズムをより明らかにすることを試みた。申請者らは、線維化病態、肝再生のin vitroにおける検討が可能な系として三高らの方法(Hepatology 1999;29:111-125)によるラット培養小型肝細胞を用いた肝細胞の3次元培養系に着目し、実際に小型肝細胞のコロニーが非実質細胞の共存下で150日間の長期培養に成功し、管腔構造が形成されていることを確認した。ラット培養小型肝細胞は、1つの細胞からコロニーを形成し、肝細胞に成熟する細胞と胆管上皮系のマーカー(CK19)を発現する細胞とに分かれるが、これを培養液中にLSKLペプチドを添加群とペプチド非添加(対照)群の2群に分けてCK19陽性細胞率を比較検討すると、対照群では54.6%であったのに対し、LSKLペプチド添加群では31.3%と有意に抑制されていた。肝線維化病態では、門脈域の線維化領域に増生細胆管がしばしば観察されるが、LSKLペプチド添加によるCK19陽性細胞の減少は、LSKLペプチドの持つ肝線維化抑制作用のメカニズムを理解する上で、重要なエビデンスであると考える。 申請者は、よりin vivoに近い実験系での解析のため、マウス胎仔肝の器官培養系の確立を試みた。ICRマウスの胎生9.5日胚を用いて実態顕微鏡下で胎仔肝を同定、無菌的に採取し、トランスウエル上で3日間、培養を行った。その結果、培養胎仔肝は、培養3日目に約3倍の体積に成長し、組織像においても肝芽細胞が増殖し、器官発生が進んでいることが観察された。また、肝細胞のマーカーであるアルブミン遺伝子転写産物の発現も増強した。よってマウス胎生9.5日胚の胎仔肝器官培養系を確立することが出来た。
|