流産や妊娠中毒症など妊娠維持機構が破綻した疾患では、EVTの細胞死や機能異常が病態形成に関わっていると考えられている。その制御機構は不明であったが、我々の研究によって絨毛細胞の細胞死や機能が、液性因子と細胞外マトリクス(ECM)により調節されることが明らかとなった。 これまで我々がえた、(1)TNFαがEVTにアポトーシスを誘導すること(2)このアポトーシスはコラーゲンやラミニンなどECMへのインテグリンを介したシグナルにより抑制されること、(3)TNFαは浸潤・生存にかかわるインテグリン発現を調節すること、(4)マトリゲル上ではEVTが血管内皮に分化し、その制御にもTNFα、血管成長因子(VEGF)が関与すること、の4点の知見からECMと液性因子がEVTの分化制御を行う一方で、ECMやサイトカインの組み合わせによって、分化が異なった方向に調節されることを示唆する。 本年度はEVTの分化調節機構を明らかにすることを目的とし、前年度おこなったDNAマイクロアレイにより明らかとなった、ヒト絨毛細胞株TCL1細胞に血管内皮様分化の過程で増幅されるSIAH1遺伝子に注目し遺伝子導入による過剰発現ならびにRNAiによる抑制実験をおこなった。 その結果、SIAH1遺伝子を強発現したTCL1細胞では、その下流にあるとされるHIF遺伝子産物、HSP90遺伝子産物の発現が上昇していた。SIAH1遺伝子遺伝子に対するSiRNAを導入しても、マトリゲル上でのTCL1細胞の血管内皮様分化は抑制されないことが明らかとなった。 これらの結果は、SIAH1は直接ではなく、その下流にある遺伝子群を介して血管内皮様分化に関与している可能性を示すものと考えられた。
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