テトラヒドロビオプテリン(BH_4)は、一酸化窒素合成に不可欠な物質であり、胎児胎盤循環においても重要な物質であると考えられている。これまでの研究で、胎児胎盤系におけるBH_4産生経路としてデヒドロ葉酸還元酵素を介する経路が最も重要であることが判明した。この酵素はBH_4のみならず、活性型葉酸の維持にも不可欠な酵素である。すなわち、BH_4レベルの維持が葉酸を維持する経路と同一の酵素で形成されていることを示す。従って、胎児におけるBH_4を用いた治療法確立のためには、BH_4代謝と葉酸代謝の相関を検討することが不可欠であると考えられた。そこで、正常胎児における臍帯血中ビオプテリン(BH_4代謝産物)と葉酸の濃度の相関を検討した。その結果、両者の間には有意な相関は認められなかった。このことから、正常発育ヒト胎児においてはBH_4と葉酸を維持するシステムが共有されているが、共有酵素であるデヒドロ葉酸還元酵素活性が両者のレベルに影響を与えないほどに十分に存在することによると考えられた。 また、ヒト胎児胎盤循環におけるBH_4の意義を検討するために、臍帯動脈血流のResistance index(RI)値を超音波パルス・ドップラー法によって解析し、これを臍帯血中ビオプテリン濃度と比較検討した。また、出生体重、新生児頭囲および胎盤重量を臍帯血中ビオプテリン濃度と比較検討した。その結果、臍帯血中のビオプテリン濃度は5.0から35.0nMで広く分布したのに対して、臍帯動脈血流のRI値は0.5〜0.7の狭い範囲に分布することが判明した。両者の間には明らかな有意な相関は認められなかった。また、ビオプテリンの広い分布に対して、出生体重、新生児頭囲および胎盤重量の分布も狭い領域に分布していた。このことから、正常発育ヒト胎児においては、ビオプテリン濃度の低い胎児においても、胎盤血流維持および子宮内発育に十分なBH_4産生の予備力が存在することが考えられた。
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