臍帯を研究に供していただく事への同意を得られた妊婦から、臍帯の提供を受け実験をおこなった。娩出された胎盤に続く臍帯を2〜3cm切り取り、顕微鏡下で臍帯動脈を性剥離した。酵素処理を加え血管平滑筋細胞を単離、ホールセルパッチクランプ法を応用してイオンチャネル電流ならびに細胞膜電位の測定を行った。まずは正常児の臍帯を使用し、正常な臍帯動脈平滑筋細胞の特質につき研究した。ひとつは酸素に対する反応に関する実験を行った。平滑筋細胞を入れたバス内を酸素化した外液で環流することで高酸素状態を、また逆に窒素化した外液での環流により低酸素状態をシミュレーションし、細胞膜電流の変化を記録した。結果、酸素濃度の変化により少なくともL型Caチャネル電流には変化は見られなかった。 実験を進めるうえでの障害として、細胞の単離の時点で平滑筋細胞保存液内にゼリー状物質が混入して細胞を取り囲み、ピペットを細胞膜表面に密着させることが困難なことがあった。実験効率を上げるため、また平滑筋細胞のみの単離増殖を期待して、少し強めに酵素処理した平滑筋細胞を用いて培養を試みた。新たに培養を始めるにあたり、いくつか必要な機器の購入をおこなった。具体的には器具の滅菌消毒のための乾熱滅菌装置、細胞の分離の際使用する遠心分離器、細胞を清潔に扱うためのクリーンベンチ、実際に培養をおこなうインキュベーター、その他ピペットなどのこまかい器具である。培地には一般的な血管平滑筋細胞に使用されているものを用い、37℃ CO_25%の条件で培養した。しかし結果として細胞の定着率は不良であった。そのため来年度は、市販されているヒト臍帯動脈平滑筋細胞cell lineの使用による実験も考慮している。
|