本研究ではスフィンゴ脂質の細胞外マトリックス代謝に及ぼす影響を知るために、S1P生成酵素であるsphingosine kinase(SPHK)の1型コラーゲン発現に及ぼす影響についての検討を行った。SPHK1遺伝子強制発現細胞ではI型collagen遺伝子の転写活性は抑制され、またRNAi法を用いたSPHK遺伝子発現抑制細胞ではI型collagen遺伝子の転写活性は増強された。更にS1Pを分解する酵素であるS1PLyase遺伝子強制発現細胞では、I型collagen遺伝子の転写活性が増強していた。これらの結果よりSPHKが生成するS1PはI型collagen遺伝子の転写活性を抑制的に制御していると考えられた。コラーゲンを抑制的に制御する因子としてはいくつかの報告があるが、今回着目したのがTNFα細胞内シグナル伝達系である。TNF-αのSPHK1遺伝子発現に与える影響を検討したところ、TNF-α添加1時間後からSPHK1mRNA発現の増強がみられ、8時間後をピークに48時間後まで発現の増強は持続していた。またSPHK1強制発現細胞では、c-Junのリン酸化およびNF-κβ活性が亢進していることから、SPHK1はTNF-α-NF-κβ/JNKシグナリングを介してコラーゲン転写活性を抑制するのではないかと考えた。更に、コラーゲンの過剰蓄積がみられる全身性強皮症由来線維芽細胞のSPHK1遺伝子発現を検討したところ、強皮症線維芽細胞におけるSPHK1mRNA発現量は正常に比べて亢進している傾向がみられた。この結果は強皮症線維芽細胞で過剰に発現したコラーゲンに対するnegative feedback機構という解釈もできるが、スフィンゴ脂質の強皮症の病態への関与については、S1PLyaseをはじめとする他のS1P関連酵素についての検討も必要であると考えられた。
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