研究概要 |
セラミドに特異的な糖転移酵素が作用することによって生合成されるスフィンゴ糖脂質は発生や分化に伴って量的・質的に変化することが知られており,様々な生体機能の調節に関わっていることが示唆されている.GD3及びGM2/GD2合成酵素ダブルノックアウトによる糖鎖変異マウスでは,GM3以外のすべての酸性スフィンゴ糖脂質を欠損しており,生後5週齢以降に突然死を頻発する.また,生後20週を過ぎると顔面に難治性の皮膚炎が出現し,くり返す掻爬行動によって重篤な皮膚損傷に至る.これまでの解析から,本ダブルノックアウトマウスでは幼若時より末梢神経の変性を認め,皮膚症状が現れる前から機械的刺激に対する痛覚が低下していることを示した.本年度は,(1)知覚異常や行動異常などの神経症状についてより詳細に解析し,(2)神経組織における遺伝子発現プロファイルの網羅的解析を行って,糖鎖による神経系維持の分子機構を検討した. (1)難治性皮膚損傷は15週齢以降で認められ,35週齢ではダブルノックアウトマウスの約50%が発症した.そこで,週齢の異なるダブルノックアウトマウスを用いて経時的に神経症状を解析した結果,温度感覚(hot plate法)における明確な異常は確認されなかったが,幼若時より痛覚反応(von Frey法)の低下が見られ,25週齢以降で明らかな歩行異常(footprint test)が認められた. (2)ダブルノックアウトマウス及び野生型マウスの脊髄mRNAを用いて,cDNAチップによる遺伝子発現プロファイルの比較解析を行った結果,ダブルノックアウトマウスで顕著に発現が低下している遺伝子27種及び亢進している遺伝子44種を同定した.さらに,これらの遺伝子についてリアルタイムRT-PCRによる定量解析を行い,発現低下遺伝子3種,上昇遺伝子11種を同定した.これらの遺伝子のうち,皮膚損傷を発症した糖鎖改変マウスにおいてのみ特異的に発現が増大する数種の遺伝子(S3-12など)を確認しており,末梢神経機能や皮膚機能におけるこれらの遺伝子の関与,及びガングリオシド糖鎖との関連について解析を進めている.
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