研究概要 |
背景 産科合併症は,高機能自閉症の危険因子である可能性があるが,先行研究の結果は一致しない。しかし,特定の産科合併症が実際に高機能自閉症の危険因子となり,かつ,それが臨床症状や脳形態学的異常と相関していれば,寄与度は小さくともetiological pathwayの一端を担うこととなる。一方,産科合併症のうち,子宮内発育遅延は,種々の精神疾患に対する病因的危険因子であることが指摘されている。今回,子宮内発育遅延が高機能自閉症発症の環境的危険因子であることを仮定し,疫学的に相関を調査するとともに,患児の症状評価,および脳容積測定を行い,臨床的・生物学的な影響を認めうるか否かについて調査した。 方法 高機能自閉症(N=64),その同胞(N=29),健常対照(N=126)を対象とした。子宮内発育遅延を反映する指標(母体BMI,妊娠中毒,在胎週数,出生時体重,出生時頭囲,出生時Kaup指数,3〜36ヶ月Kaup指数)を母子手帳から収集した。また,症状評価および診断を自閉症診断面接改訂版(ADI-R)を用いて,また,脳容積測定を脳磁気共鳴画像(MRI)を用いておこなった。 結果 高機能自閉症群は,健常対照群と比べて,出生児頭囲,各時点のKaup指数が有意に小さかった。一部の指標では,同胞にも同様の傾向が見られた。これらの異常は,臨床症状,特に対人的相互作用と相関し,また,全脳容積および左海馬容積と弱い相関を示す傾向が見られた。 結論 子宮内発育遅延は,高機能自閉症に対して,その臨床症状および脳形態学的異常との相関を有する可能性のある,病因的危険因子であることが示唆された。 限界と今後の方向性 次年度さらに対象者数を増やして解析を行う。
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